異世界より、まだ見ぬ故郷へ

十角館の殺人

この前の土曜日、仕事が休みだったのでかねてより読みたいと思っていたにもかかわらず本屋に行くたびに買うのを忘れて次こそは買うのだと誓っていた綾辻行人氏の「十角館の殺人」をようやく購入し、読み終えた。

 

意外と分厚かったので予定としては数日に分けて少しずつ読んでいくつもりだったが、結末がどうなるのか非常に気になってしまい結局1日で読み終えた。

 

もともとこの本を読みたいと思っていたのはなぜかというと、どんでん返しがすごい物語としてネット上で頻繁に名前を目にしていたからだ。

 

子供のころから刑事ドラマや二時間もののサスペンス・ミステリーを視聴していた者としては一般的なものでは物足りなくなっており、単純に事件が起こりそれを調べ犯人にたどり着き自供させるというものではなく終盤に大きく局面が変わるような物語に興味があったのだ。

 

そうしてまんまと騙された。

わたしは中村青司が生きている説と、物語のキーパーソンの一人である中村千織に集まったメンバー以外の恋人がいてその恋人が外部から十角館に侵入し復讐殺人を実行した説を考察していた。

物語では集まったメンバー内に犯人がいるかもしれないという疑心暗鬼な状況になっていたし、この状況になることは十分予測できることだったのでまさかこの中にはいないだろうという思い込みによって完全に上記2つの説しかみえなくなっていたため、終盤の展開に衝撃を受けた。

 

そして、犯人の執念深さと計画性がすごいなあと。

けれどきっと、犯人はこの殺人を行ったことで心により大きな喪失感を持つことになったのではないかと思った。

 

プロローグで彼は復讐を誓い、その良否は海にゆだねてその計画を記載した紙の入った瓶を海に投げた。

そして、エピローグ。

すべてが終わった後、彼は海で恋人であった中村千織を思いその名前を心の中で何度もつぶやくのだけれど彼女の姿は現れなかった。

そして、プロローグで海に投げた瓶が彼のもとに戻ってくる。

 

この描写を読んでわたしは、この瞬間彼は復讐を遂げたことに何の意味もなかったことに気づいたのではないかと思った。

 

彼女が亡くなってから長い時間をかけて綿密に計画を立て、きっとこの復讐が成功すれば自分も彼女も報われると信じていて、それゆえに心に生じた喪失感もより大きなものとなった、プロローグとエピローグからはそんな心の動きを私は感じた。

 

 

大切な人が直接でも間接的にでも誰かのせいによっていなくなってしまった経験がないので実際自分がこの立場におかれたときにどんな感情を抱くかはわからない。

そんな境遇の中での考えはきれいごとのようだけれど、本当の意味での復讐ってこの悲しみをたとえ数十年とかかっても自分の力で乗り越え、心の平穏を取り戻すことではないかとわたしは考える。

しんどいと思う。

けれど怒ったところで、憎んだところでうまくいくやつはどうやってもうまくいく。

世の中ってそういうものだ。理不尽で不公平。

もちろん法的に制裁を加えられるのならば戦うべきだと思うけれど、今回みたいな法的措置に問えるかどうかという場合には、残った者の心の平穏が取り戻され記憶の中で故人とともにささやかな幸せの中を生きることが故人も残された者も報われるような気がする。

 

 

 

ともあれ、やっぱり叙述トリックものはおもしろいね。

自分の考察が見当違いで思わぬところに真実が存在していたことに気づいた瞬間のアハ体験的な脳の感覚。

また今度何か探して読んでみようと思う。